SS

□ありがとう
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「えい、やーあああっっ!!」




パシッンッッ










私の竹刀は弾き飛ばされ、スローモーションのようにゆっくりと、相手の竹刀が私の面を射抜き、審判の試合終了の合図で幕を閉じた。







……―――――
……―――――



会場からの歓声や喧噪は一瞬にして無となり

ただ呆然として、立ち竦む事しかできなかった。











それから、どのようにして此処に来て皆に何と云ったのかは全く覚えていない。



只、熱い涙が止めどとなく零れていた。




そう、この試合は団体戦。私の勝負で勝敗で決まる大事な試合だった。


この試合に勝てば全国大会
そして、この勝敗で三年生の引退も決まる大事な試合だった。





悔しながら自分の不甲斐なさに涙が止まらなくなった





そう、土方先輩達の目標にしていた全国大会。

私のせいで儚く消えてしまった












やるせない気持ちが雫となり地面の土を濡らした


皆に何と謝ればいいのだろうか……
今更会わす顔がわからず体育館裏で一人落胆した



項垂るようにしゃがみ体育館の石を投げつけた







……くやしい









ギギィ…ギギィ…―

耳に入る錆び付いた古びたドアの音




こんな処に誰か来るなんて……

急いでジャージの袖で涙を拭いた






「よう……。こんな所でメソメソしてやがんのか……。」

土方先輩が顔を出した





うわっ、マジかよ
こんな時にこの人が来るなよ。




一瞬、土方先輩と目が合うとまた、視線を反らし俯いた。




『……すい…ませんでした』

涙混じりの声を聞かれたくなくて、ぼそり云う私の声は果たして聞こえたのか聞こえないのか私の声は一瞬にして消えてなくなった。



…泣くな自分。泣くな泣くな。
泣きたいのは先輩達の方のだ





必死に涙を堪え平然を装う








「馬鹿だよ。おめーは。」


何時もの土方の説教が始まるのだと思って、地面に転がる石ころを見つめた。








でも土方先輩はいくら待てども何も言わなかった







ふいに土方先輩は私に近づいた

土方先輩の拳が上がった

思わずぶたれるのではないかと思って身構えた






痛みでなはない。この感触。




「お前は良くやった」

そう云い私の髪をわさわさと撫でた







思いがけない言葉にまた涙が出そうになる




「よくやった……」




そう云うだけで他に何も言わなかった






土方先輩は一つため息をつくと私の隣に座った






「おい、見て見ろ…。綺麗だぞ。」
そう云い視線の先を見ると綺麗な茜色の空が広がった



夕日か……

地面ばかり見てたから気がつかなった








「あ、そうだ。」

土方先輩は突然何かを思い出し、立ち上がると私の腕を掴み歩きだした。



「もたもたしねぇで早く歩け。それでも運動部か!?」

何時もの短気な口調に戻り私の腕を掴み走り出す先輩





何をするのだと疑問に思いながらも、云い返しても何時もの怒号混じりの言葉返ってくると思い只後をついて行った。








おまけに自転車の後ろに乗れだのなんだので、行く宛ても教えられず二人を乗せた自転車はひた走っていた。







私を乗せてたい自転車は一生懸命坂道をこいでいた







「くそっ…間に合わねぇ」ぶつぶつ云う先輩。
額やTシャツ越しの背中にはうっすらと汗が滲んでいる





私は懸命に自転車をこぐ、土方先輩の後ろ姿を眺めた





いつも追いかけていたその背中


大きな大きな大好きな背中



今日で最後なのか
そう思うと気分が沈んだ





二人を乗せた自転車は程なくして丘の頂上にたどり着いていた







こんな処来た事ないや


見晴らしのいい丘の上







土方先輩は息を切らせながら云った



「ま、間に合わなかった…。」
ハアハアと息をして全体力を使い込んだように草原に転がり込んだ








「……此処からの夕日を見せたかんだ。」


そう云い寝そべり既に暗くなっている空を仰いだ








「お前に見せたかった。此処の夕日。」



『夕日…?』





力尽き仰向けで寝そべっている土方先輩




「……ま、夜空を拝むのも悪くねぇな……。」



二人で空を見上げた






一面に広がる星空









「……お前が居たからやってこれたんだ。ありがとうよ。」





ありがとうか





『土方先輩。ありがとうは
私の台詞だよ。』








ありがとうって言葉いいもんだね



満天の夜空を寝そべって二人で見上げた

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